旅行が好きだから、旅行代理店、服が好きだからアパレル店員。果たしてそれは幸せなのだろうか?
例えば、 まちづくりや空間デザインが好きだから不動産デベロッパーを目指そう と考えます。
某不動産デベロッパーに狙いを定め、都市開発の中でも、自分の思い描いたアイデアやデザインが形となり、街の顔をつくり、人の流れを変えるような、夢のあるダイナミックな仕事がしたい。そこで、商業施設開発事業に携わりたいと考えます。
しかし、実際に、その商業施設のデザインや設計は、設計事務所のデザイナーや社内外の建築士など、専門学校や大学院で建築学専攻を経た、専門的な知識や技術を持った方々で、1からアイデアを形にすることは、文系の方にはできません。
さらに、配属後の仕事は、 商業施設開発ではなく、大規模高層マンションプロジェクトでした。プロジェクトが策定されてから、5年の長期スパンで進められる大規模プロジェクトです。そこでは、用地を入札で取得するのではなく、すでに市街地化されている地域に、この大規模高層マンションを建設するための、地権者交渉役です。その市街地には、約100名地権者の方々が既に何十年暮らしています。
そこで、 すべての地権者の方々一人ひとりに、建設の同意と、立ち退きの要求をしなければなりません。地権者全員から同意を得るために、毎日毎日、何度も足しげく訪れては追い返され、罵声を浴びせられ、中には、1年、2年の交渉におよぶ方も居ました。
ついには、理想と現実のギャップに苦しみ、日に日に疲弊し、ついに、仕事を休むようになりました。
さて、冒頭に思い描いていた、夢のあるダイナミックな仕事とこの現実、どう受け止めるでしょうか。
ゴールまでの途中経過は予測不可能
「あなたの5年後、10年後のキャリアプランについて教えてください」
就職活動では、このようなESの質問、面接の質問があります。
キャリアは、ゴールイメージから逆算して描くものですが、ゴールイメージそのものを描きづらいのが現実です。
なぜならば、日本企業は海外と違い、職業の専門性を身につけてキャリアアップしていく就職ではなく、1つの企業に留まり、幅広い分野、部門を経験し、総合力を身につけてキャリアアップさせていく「就社」を前提としているからです。
理想のキャリアプランや、やりたいことを思い描くことはいくらでもできるのですが、ほぼ、思い通りにはなりません。適正な人事配置は、その都度状況によって適宜見直され、いつどのタイミングで誰がどこに部署移動になるかわからないことがほとんどです。
それに、ESや面接で、熱心にやりたいことを伝えてても、それが実現可能レベルなものなのかどうかは不明ですし、そもそも、人事(面接官)は、あなたのやりたいことなど、正直どうでもいいです。 むしろ、自分のアビリティ=強みや長所といった能力を活かし、どのように企業に貢献できるのかを知りたいのです。
それはまた別の機会にお伝えするとして、入社前の仕事やキャリアに対する期待値レベル(これがしたい、あれをやりたい)が高ければ高いほど、いざ入社してみたら、全く意図せぬ方向、意外な方向に流れ流されている感覚、こんなはずじゃなかった感覚が強くなります。
それならいっそのこと、流れに身をまかせてみる
就活には、業界研究・企業研究は欠かせません。それは、また別の機会に詳しくお伝えしますが、業界・企業研究を「職業・職種研究」と混同していたり、業界や企業の概要や特徴をノートにまとめることだけで満足してしまっていたりする就活生が毎年後を絶ちません。
例えば、 大学でマーケティング戦略について専攻していたので、就職先は大手食品メーカーの本社企画部門や商品開発部門に携わりたい とします。
そのために、一生懸命、企画職や商品開発職の職種研究をしても、花形の仕事である商品開発に新卒から配属されることはほとんどありません。
むしろ、まずは現場を知るということで、実際の配属は、地方の小売店のオーナーへ向けた、ルート営業だったりします。某化粧品メーカーでは、入社後の初任地の配属は、「実家から通えない距離=一人暮らし」を前提とした配属という方針を決めています。
ルート営業では、 大量の段ボール箱に詰め込んだ自社商品を、トラックを運転して担当の小売店に納品するために、毎日、軍手にジャンパーを羽織り、取引拡大のために奔走します。
小売店には、自社の商品が目立つよう、少しでも売り場面積を確保し、積み上げた段ボールから商品を陳列し、ときに販売のお手伝いをすることもあります。
入社前に想定していたキャリアプランでは、パリっとしたスーツに身を包み、本社で新商品企画のための会議や、広告宣伝の打ち合わせ、新商品発表に向けたプレゼンテーションなど、華やかなイメージをしていましたが、地方で軍手にジャンパーでトラックを運転という地味で泥臭い仕事をするも往々にしてあります。
不動産デベロッパーの例も、食品メーカーの例も、ほんの一例ですが、 当初の想定=キャリアプランというものほどあてになりません。 だからと言って、キャリアプランを否定的にとらえているわけでも、全く考えなくてもいいわけでもありません。
入社してから3年、5年、10年、20年といった節目節目の重要なターニングポイントを設定し、その節目においては、真剣に悩み、考える。
そして、次のステップに進むために身につけるべき経験や知識、能力を想定する。最終的なゴールに到達するためにも、節目節目のキャリアプランの想定は必要です。
その過程においては、なにが起こるか予測不可能なのですら、 次のチャンスを自ら引き寄せるためにも、そこで腐らずに、今の配属先=流れついた先で、流れのままに身をまかせ、一生懸命頑張ってみる ということです。すると、結果が少しづつついてきて、顧客からも信頼されるようになる。モチベーションも向上し、さらに売上が伸び、上司からの評価も高まる。
ついには、売上が全国的にトップクラスの集団に入り込むようになると、それが上層部や人事の目に留まり、次の人事異動では、念願の商業施設開発責任者。
あるいは商品企画・開発部のリーダーへ配属・昇格、ということがあるからです。
このように、流れ着いた先で、一生懸命頑張っていれば、誰かの目に留まり、次のチャンスを自ら引き寄せることができるため、節目節目の到達目標や将来像は描きながらも、日々、目の前の業務に全力で取り組む、ということが大切であると考えます。
『好きなこと』『やりたいこと』より、『得意なこと』を仕事にする
見ている視点が「ユーザー・消費者」のままですと、人材と企業のミスマッチは起こります。ですから、供給者として業務を理解することが大事です。「好き」が強くて、その動機が入口で就職すると、上記のような理想と現実のギャップに苛まれます。
まちづくりが好きなのは、その商業施設や複合施設を利用する消費者として好きなのであって、供給者視点ではありません。 そうではなく、不動産デベロッパー供給者として、社内外との人間関係の調整や交渉力はあるか。100人の地権者に怒鳴られてもクレームを受けても心の折れないストレス耐性はあるか。あるいは、国や地方の都市整備局との煩雑で膨大な事務作業や数年単位で時間のかかるやりとりが得意かどうか。
食品メーカーであれば、食べることが好きなのは当然であって、それは志望動機ではなく単なるきっかけです。
また、食べるということも、消費者目線から供給者目線に切り替え、小売店に向けて、自社の商品展開・拡大のために日々アンテナを巡らせ情報を収集し、オーナーに有益な情報を提供し提案する力はあるか。
あるいは、寒い中ジャンパーを着て、いかつい力作業ができるか。あるいは、オーナーに気に入られるような対人関係、信頼関係構築力や、電話で呼び出されたら休日でもすぐ駆けつけられるようなフットワークは得意か。
まとめ
・見る視点を『消費者』から「供給者」に変える
・『好き』から『得意』を活かせる仕事かどうか
このような観点で、企業や業界の特徴を見ていければ、「こんなはずじゃなかった」は、少なからず減らしていくことはできると思います。
仕事や人生を完全にコントロールすることは予測不可能です。 ただ、幸せかどうかは、与えられた環境で実績を重ね、得意を増やしていくことで実感していくものなのかもしれません。